不育症

妊娠は成立するが、流産や死産を繰り返す状態

  • 習慣性流産:3回以上連続する流産
  • 臨床的流産:超音波検査で胎嚢を確認できる
  • 生化学妊娠:妊娠反応が陽性となるが、胎嚢が確認される前に出血とともに消失する(不育症には含めない)

不育症の4大原因と検査治療方針および問題点

不育症の原因診断のために必要な検査治療方針臨床上の問題
抗リン脂質抗体ループスアンチコアグラント ・リン脂質中和法 ・希釈ラッセル蛇毒法 抗CL・β2グリコプロテイン(GPI)抗体※いずれも12週間持続低用量アスピリン・ 未分画ヘパリン併用療法・測定が適切に行われていない ・治療抵抗性が20~30%存在する
子宮奇形超音波検査によるスクリーニング 子宮卵管造影 中隔子宮と双角子宮はMRIで鑑別中隔子宮に対して子宮鏡下中隔切除術(TCR)・手術によって出産率が改善 することが証明されていない ・無作為比較試験(RCT)はない
夫婦染色体構造異常 (均衡型転座)夫婦染色体G分染法遺伝カウンセリング 着床前診断(PGT-SR)・PGT-SRによって流産は減少するが、出産率は改善しない
胎児(胎芽)染色体数的異常絨毛染色体G分染法 アレイCGH法遺伝カウンセリング 着床前診断(PGT-A)・PGT-Aによって出産率は改善していない

676人の不育症患者の異常頻度

胎児染色体異常を含めた482人の不育症患者の異常頻度

不育症検査を行った症例の異常頻度(左)と胎児染色体検査を加えた症例の異常頻度(左)(Sugiura-Ogasawara M et al :Hum Reprod 2012 :27 :2297-2303 より引用)

抗リン脂質抗体学会

分類基準(国際抗リン脂質抗体学会)

免疫学的検査

抗リン脂質抗体:抗CL-B₂GP1複合体抗体(保険)~抗CL抗体IgG(保険) IgM(自費)/ループスアンチコアグラント(保険)/抗pE抗体 IgG、IgM(自費)/抗PS抗体 IgG、IgM(自費)/抗核抗体(保険)/抗DNA抗体(保険)/抗SS-AIR抗体(保険)/同種免疫検査(自費)NK活性、Th1/Th2、遮断抗体活性、抗HLA抗体/その他(自費)

内分泌検査

BBT基礎体温のモニタリング/糖尿病検査:空腹時血糖(保険)75gGTT、HbA1c(保険)/甲状腺機能検査:TSH、FT₃、FT₄(保険)/下垂体機能検査:PRL、LH、FSH、黄体機能検査 P(保険)/LH-RH、TRH負荷テスト

凝固系検査

APTT、PT、凝固第Ⅻ因子(保険)/子宮内胎児死亡例に対しProteinC活性、ProteinS活性、アンチトロンビン(保険)

不育症の治療

抗リン脂質抗体症候群(APS)/APSによる流産のメカニズムの中には血流凝固異常にあるので抗凝固療法を行います。/紫苓湯7.5g 3×/日/低用量アスピリン(60~100g/日)+未分画ヘパリン(5,000を12時間ごと、1万単位/日)/ヘパリンカルシウム製剤:10,000単位(5,000単位12時間毎に2回/日皮下注)/SLE様自己免疫症疾患の合併例にはプレドニン+低用量アスピリン/APS基準に合致しない例:低用量アスピリン

子宮奇形

中隔子宮/双角子宮/単角子宮/重複子宮などの子宮形態異常は習慣性流産、子宮内胎児死亡、早産、骨盤位の原因になります。最近の報告によりますと手術による効果はまだ定まっていません。

夫婦染色体構造異常

均衡型相互転座をもつカップルは流産し易いと言われています。染色体の検査前にはたとえ異常が検出されたところで、根本的治療がない事を十分遺伝カウンセリングで伝えることが重要です。倫理面、夫婦関係への影響を考慮する必要があります。

その他

原因不明の不育症は免疫学的拒絶によるとの説があります。すなわち胎児は父・母両方に由来しますが、通常胎児は母体から異物と認識されて拒絶されることなく発育しています。母の免疫系は当然胎児を認識して免疫反応は起こりますが、その反応は臓器移植とは異なり、妊娠維持に都合の良い方向へ働きます。ところが原因不明の流産を反復する女性の中には、この仕組みがうまく機能しない場合がありこれを同種免疫といいます。

またNK細胞活性が高値(≧42%)の場合、次回妊娠の流産率は正常値を示すグループに比べ高いことが報告されています。これらの場合、当帰芍薬散が免疫応答を調整し、流産予防に役立ちます。

同種免疫異常の治療:夫リンパ球の移植による免疫療法歴史的にも評価がわかれていますが現在は否定的な報告になっています。(弊院でもかつてはそれなりに成果はありましたが。)脱落膜に存在するNK細胞が流産に関与するため、流産の予測が可能となっています。治療はOK246療法が採用されています。他プロゲステロン製剤もあります。

免疫異常

Th1/Th2細胞で明らかにTh1細胞(細胞性免疫)優位を上昇を認める場合、反復着床不全(RIF)の可能性があります。

不妊・不育のメンタルケアー:不妊治療により妊娠した女性と自然妊娠した女性はほぼ同程度のメンタルヘルスであったと報告されています。従って自然妊娠とほぼ同じ支援で良いとされます。ただし、難治性のケースではメンタルリスクが予想されますので、妊娠前から積極的にメンタルケアが必要かもしれません。リラックス法/自立訓練法/認知療法/ストレス性うつ病の自助努力

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